はてなダイアラーが選ぶ”このミステリが凄い”

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異邦の騎士 改訂完全版

異邦の騎士 改訂完全版


『異邦の騎士 改訂完全版』作者: 島田荘司 1998/03
(元々は1997年9月に原書房から『異邦の騎士 改訂愛蔵版』 として発売されていた作品の文庫化したものが写真)
改訂完全版の名が示すとおり、著者の同名作品の加筆修正版である。デビュー作『占星術殺人事件』以前に書かれていた作品で、その完成度を高めるためと著者の思い入れの強さの故か、この作品のみ改訂版が出されることになった。
 
「異邦」というタイトル、そのものが示すとおり、著者の徹底的なロマンチシズムが詰め込まれてた作品であると思う。私の父親の年代が愛したトレンド、例えばチックコリアの演奏であるとか、が思いのたけを述べるかのように書き込まれている。ただ、そのロマンチシズムに引き込む力は圧倒的だ結局70年代生まれで、ジャズの素養など殆どなかった私自身が、RTFの「Romantic Warrior」のCDを購入することになったくらいなのだから。また著者が掲げている「本格」の名を冠するには逆に異端の作品であるとは思うが、それゆえにミステリに拘らず人に薦められる作品である。
 
設定そのものは大掛かりで、よくよく考えてみると? なところもあるとは思うのだが、それを感じさせないストーリー展開と描写の素晴らしさは「凄い」。
惜しむらくは、作品発表順の関係もあってか、著者の「御手洗潔」シリーズを数作品でも読了してから読むことが前提になっているところだ。未読の方には反則であり販促と取られかねないが、『占星術殺人事件』の後に読まれることをお奨めする。
 

同じく本格的な作品として山口雅也の『生ける屍の死』とどちらを押すかで悩んだが、思い入れの差で『異邦の〜』を推すことにした。本格の完成度だけなら『生ける〜』の方が「すごい」と思うのだが、それに対抗できるほどに『異邦の〜』は「すごい」作品に仕上がっていると思う。

※1988年 宝島社「このミステリがすごい」国内5位(但し改訂版になる前の『異邦の騎士』)

秘密 (文春文庫)

秘密 (文春文庫)


『秘密』 東野圭吾 1998年/09
広末涼子が主演して映画化されることにもなった著者の出世作。残念ながら映画の方の出来はいまいちなので、見るにしても小説版を先に一読しておくことをお薦めする。それまではどちらかといえば、マイナーなイメージのあった東野圭吾が一躍ミステリー界の売れっ子になった分岐点とも言える。
また作風もこの『秘密』を(明確ではないものの)境として、それまでの探偵登場スタイルメインの作品が多かったが、登場人物に連続性のない(連作ではないという意)社会派の作品メインの発表になったように思う。
 
そもそもこの著者の作品は「多彩」でかつ「多才」である。『超・殺人事件』のような危険なパロディや、『天空の蜂』や『鳥人計画』などのある種理系的作品。そして「本格」的な探偵小説、『仮面山荘殺人事件』や、”結末を書かない推理小説”という前代未聞の試み『どちらかが彼女を殺した』。
作品の種類だけを挙げるだけでページが埋まってしまうくらいだ。だから著者の代表作を『秘密』と言い切るのは抵抗があるし、何冊か読んだことのある方で反発される方がいるだろうことは想像に難くない。ただ、この作品の巧みさは、ミステリというジャンルの奥深さを教えてくれる、そんな大きさがあると感じていて、そこが私の推す理由でもある。
 
AMAZONのエディタレビューを引用

妻と小学生の娘が事故に。妻の葬儀の夜、意識を取戻した娘の体に宿っていたのは死んだ筈の妻だった……切なさ溢れる長篇ミステリー

東野作品にしては珍しく”非科学的な設定”から物語は始まる。こんなのでミステリとして成り立つのか心配させられる出だしではあるが、この入れ替わり以外に非科学的な設定は出てこないのでご安心を。ただ、このたった一つではあるが決定的な非科学的設定というミステリとしての矛盾点を持ちつつ、その違和感を読者に感じさせずに読み薦めさせる著者の筆致は「すごい」。まるで自分の奥さんが同じ境遇になった経験でもあるのか? と疑いたくなるようなある意味リアリズムがある。さらにこの『秘密』は実は『どちらかが彼女を殺した』に繋がる著者のトリックスター的な試みも含められている。実は決定的な謎であり、タイトルにもなっている「秘密」が文章中には明示的に書かれることなく物語が終わるのである。作品「『秘密』においては『どちらかが彼女を殺した』(その後の『私が彼を殺した』)ほどの難易度は無いので大抵の読者は著者の仕掛けた本当の「秘密」に気づくことができると思う。そういういろいろな楽しみを詰め込んだ作品として、著者の「代表作の一つ」と言うことは出来ると思う。
 
徹底的にワイダニットを追求した作品とも言える。そのWhyを感じることが出来れば必ず『秘密』を好きになるはず。
 
※1999年 宝島社「このミステリがすごい」国内9位 
※1999年度 日本推理作家協会

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


そして誰もいなくなった』 アガサクリスティー, Agatha Christie, 清水俊二
原題 "Ten Little Niggers (改 And Then There Were None)"  アガサクリスティーの代表作にして、その後の数々の模倣・パロディ・下敷き作品の先駆的役割を担った金字塔と言える。クリスティは小説家だけでなく、舞台の戯曲も手がけており、この 『そして誰もいなくなった』 は「小説版」と「戯曲版」で2つの結末パターンがある。ちなみに2005年に、この戯曲版の公演があるそうなので興味のある方はどうぞ。→
http://www.soshite.jp/

無人島に集められた一見なんの繋がりもない登場人物。誰が犯人か分からない状態で進む連続殺人。フーダニットを極限的に突き詰めるとこうなる! と言えるのではないだろうか?
マザーグースの童歌を取り入れることによってさらに物語に深みが増し、人形を小道具に用いることで恐怖感を増している。ミステリの中では、巧いとか凄いとかの形容を超えて完成された一つの神話になりつつあるように思える。
それだけに、マザーグースを登場させると「ああ『そして誰も・・・』を下敷きにしてるのね」と読者に意識させる教本のような役割も担っている。戯曲台本をも得意とした著者らしく、その読み進めさせる力、一度読んだら止まらない「かっぱえびせん」的な魅力は頭抜けています。また、ポワロやミスマープルのような魅力的なシリーズ作品と何の絡みも無い単独独立作品にも関わらず、著者の最高傑作と紹介されることの多さは、その完成度の高さを示している理由でもあるでしょう。
 
私がクリスティに最初に傾倒していたのは中学生のころだったが、そのくらいの年代にまずは一冊『そして誰もいなくなった』 を読了して欲しい。そういう作品です。
 
大学生のときに貧乏旅行でロンドンに赴いたことがあるが、そのときにクリスティの戯曲『マウストラップ』がどうしても見たくて、なけなしの旅費からチケットを購入した経験がある。もちろん戯曲そのものが英語で進行するので台詞を全て聞き取ることは不可能なのであるが、それでもストーリー上の面白さが十二分に伝わってきた。
ミステリの万国共通の面白さを体言している作品ではないかと思う。
 
 
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自分からキーワード起こしておいて執筆してないことに罪悪感のようなものを感じてなかったわけではないが、いまいちのりきれなかったので後回しになってしまっていた。年が変わって気分も切り替え、ここに掲載する。散々悩んだ末に結局はありきたりなものになってしまったが、本格的作品、社会的作品、古典的作品というジャンルの異なる3作品を紹介しておく。
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1月10日現在確認できている、このミス記載ページ一覧
http://d.hatena.ne.jp/snobby/20041205
http://d.hatena.ne.jp/kamome48/20041205#1102251222
http://d.hatena.ne.jp/memento-mori/20041205
http://d.hatena.ne.jp/So-Shiro/20041212
http://d.hatena.ne.jp/natunokaori/20041221#p1
http://d.hatena.ne.jp/perfectspell/20041222#p8
http://d.hatena.ne.jp/sunny/20041227#1104115158
http://d.hatena.ne.jp/reply/20041128
http://d.hatena.ne.jp/alpinix/20050100