第二百七十一夜 熱狂!WBCの理由〜漫画的展開〜

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瞬間最高視聴率56.0% WBC日本―キューバ戦
21日に日本テレビ系で生中継されたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝の日本―キューバ戦の視聴率は43.4%(関東地区)だったと22日、ビデオリサーチが発表した。瞬間最高視聴率は午後2時58分の56.0%(同)で、日本が優勝を決めた直後だった。19日にTBS系で放送された準決勝の日本―韓国戦は視聴率が36.2%、瞬間最高視聴率が50.3%(同)で、いずれも上回った。

当初は開催すら危ぶまれたWBC、アメリカが一線級のメジャーリーガーを選出し、アマチュア最強のキューバが参戦、ドミニカ、ベネズエラもメジャー屈指の選手を送り出し、メキシコ、カナダも予想以上のポテンシャルを発揮、何より韓国、日本が東洋の底力を発揮して旋風を巻き起こした。
 
特に日本国内での盛り上がりは異常なほど。王監督が「日本の野球の将来を左右する」ほどの意気込みで望んでいたのは知っていたが、これほどまでになるとは思わなかった。
イチロー、大塚のメジャーリーガーを招集できたとはいえ、松井、城島の不参加、地味なところでは広島の黒田の離脱、といった最強日本とは決して言えない布陣で王監督は戦わざるを得なかったからだ。
過去のオリンピックでの苦い経験、アメリカの布陣、韓国の意気込み、そしてドミニカ、ベネズエラといった強国の参戦で日本がどこまでいけるのかという読みはせいぜい「準決勝進出」がいいところだった。
それが、決勝での56%瞬間視聴率なのだから、「野球は最後まで分からない」ということが再認識されたということか。
ただ、これだけの盛り上がりを見せた理由が単に「日本優勝」という一点であったわけではないのではないだろうか。
正直、決勝はキューバに逆転負けしていてもよかったかもしれないとまで僕は思っている。そのほうが3年後のリベンジに向けて、国内の盛り上がりは高まったかもしれないと。
 
さて、ここまで盛り上がった、真の、という言い方が大げさなら「裏の」理由があると僕は感じている。
 
ずばりそれは漫画的展開だ。
 
どういうことか、具体的にポイントをたどっていこう。
 
まず、予選リーグ、台湾、中国にあっさりと勝ち、前回オリンピックと同様、「やはりプロメンバーをそろえた日本は強い」とファンは感じたはずだ。だが、それだけだ。
結果が見えている試合を、国内予選という地の利を生かした戦いの中で、誰も日本が負けるなどと予想はしづらい。そんな中で勝ってもやはり盛り上がらない。
その図式が崩れたのは韓国戦だ。
 
日本は勝つはずの試合を落とした。二次リーグ進出はほぼ決まっていたのだから落胆することはないし、二次リーグで勝てばいいんだ、というペナントレース式(落としていい試合に無理することは無いという意味)の戦い方、試合があるレベル以上に盛り上がらない理由がそこにあったと思う。
 
二次リーグに進出した日本を待っていたのは逆に「アメリカ有利の地元開催」というアウェイでの戦い。ここからが本当の正念場、という力の入る展開だった。
 
 
ここから本当の意味での盛り上がりが始まった。試合はご存知のように「幻の犠牲フライ」によって日本はサヨナラ負け。韓国がメキシコに勝ったことで日本は相当厳しい状況に陥った。
ここで漫画的要素が二つ登場した。
ヒールとライバルである。
ヒールは例のタッチアップの審判であり、アメリカチームであり、アメリカを優勝させようという意図に見えなくもない、WBCの実行本部。
ライバルはもちろん韓国である。
ヒールの登場により、悲観にくれながらも、日本チーム、日本国内は一体となったと思う。日本のメディアはもちろんのこと、アメリカのメディアもこぞって、審判のジャッジを批判した。だが、ヒールはヒール的な勝ち方で日本を下した。それこそが日本を奮い立たせた。
イチローが珍しく熱くメディアに訴え、王監督が紳士的な態度をとりながらもこちらも珍しく、抗議の声をあげた。あのアメリカに、である。
 
そしてメキシコ戦での日本の強さの復活。希望は繋がった。
 
そして漫画的展開で言えばリベンジ戦になる韓国との決戦、勝てばほぼ文句なく準決勝進出、負ければ二次リーグ敗退がほぼ決まってしまう(メキシコがアメリカに勝つ、というか細い線に頼らざるを得ない)。
 
一方韓国はほぼ二次リーグ進出をきめていた。ただし一抹の不安は残っていたはずだ。大量失点で敗戦した場合、メキシコアメリカ戦の結果によってはここまでの快進撃がたった一線で水の泡になる可能性もある。
 
結局、その差がでたのではないか、と僕は思う。ヒール役であった例の審判がまた日本戦にも審判に入るという皮肉も交わり、日本は韓国に負けた。マウンドに韓国の国旗を立てられるという絵も日本に屈辱を感じさせ、意気消沈させるのに十分だった。
誰もが日本の終戦を予想せざるを得なかった。
 
しかし漫画的展開、それも熱いスポーツ漫画的展開は日本の二次リーグ敗退を許さなかった。
 
それがメキシコのアメリカ戦に掛ける思い、結果にでた。散々ぱらブログや掲示板で引用されている名言がある。

メキシコ・コンザレス選手
「我々が次のステージへ進むことは適わなかった、しかし残されていた最後のもう一つの椅子に座るのにアメリカは相応しくないチームだった。 我々が日本をその席につける力になれたのなら幸せだ。」

メキシコにアメリカが勝てたのはさもありなん、という感じだが実はこのコメントいくら探しもソース元が見つからない。まさかカタリとも思えないのだが。
 
ここでまたも漫画的展開がでた。一度主人公に負けた敵が、味方となりヒールを代わりにやっつけてくれる、しかし、そのその新たな味方はヒールをやっつけることで敗退してしまう、という展開だ。
日本はメキシコに感謝してもしつくせない。宿命のライバルであった韓国との再戦がかない、ヒール役であったアメリカの進出を阻んでくれたばかりか、WBCの大会本部が目指したのではない、WBCの本当の意味での到達点・目標を掲示してくれたからだ。

メキシコ・バレンズエラ選手
「我々の国ではサッカーやボクシング等の方が野球より人気がある。今回のWBCでより多くのメキシコ人に野球に興味を持って欲しかった。アメリカはとても強い国だが、ホームランを2ベースヒットにされた時、どうしても勝って、見てくれている子供達に野球というスポーツは気持ちの強いものが勝つという所を見せたかった。日本には胸を張って決勝で戦ってほしい。」

勝つべくして勝てなかったアメリカ、野球の聖地としての威厳を保ちたかったのかもしれないが、それよりも野球を世界中に広める伝道師としての意地が、欺瞞や誤審に守られた競技というレッテルをはがしてくれたメキシコこそが今回のWBCの影の立役者ではないかと思う。
 
その後の展開は日本人の大半が知るところである。メキシコの思いを汲んだのか、一度地獄の底に沈んだ、失うものの無い強さが発揮できたのか、日本は韓国に不振だった福留の文字通りたった一振りの劇的な勝ち方で決勝に進み(福留はあの打席でホームランを打ったスイングしかしていない。それがあまりにきれいな、福留らしいフォームで打った瞬間に分かる美しい放物線を描いたのだ)アマチュア世界最強のキューバも、途中苦しい展開はあったものの勝った。負けたもののキューバは決勝に進んだことを喜び、あのカストロ議長ですら日本の勝利を称えた(メモを読んでコメントしていたがマツナカを発音できずに「名前は広報に聞いてくれ」と言ったとか)。
 
メジャーを揃えたアメリカとドミニカが決勝戦を戦うと誰もが想像した戦前の予想を覆し、日本の侍集団がWBCを制した。
 
盛り上がるべくして盛り上がった大会であったと思う。今考えてみれば、メジャーで成功を収めることを優先していた松井や城島(それが悪いこととは思わない)を召集しなかったことは結果としてチームの結束を生んだのではないだろうか。少なくとも今大会のイチローにはそういうWBCで優勝する以外の欲が微塵も感じられなかった。アメリカ戦での先頭打者ホームランは明らかに狙ったものだったが、それは戦略的に見て、先手を取りたい、取れる可能性の一番高い手段を、自らの責任で行った結果だと思う。決して目立ちたいという欲があったとは思えない。
 
世界一になった日本「野球」。だがペナンとレースにこの熱狂が持ち込まれるのだろうか?
というとこれは疑問である。ここまで分析したが、やはりWBCが盛り上がった理由は「短期決戦の中に物語を盛り上がる要素が凝縮された結果」だと考えずにはいられないからだ。負けてもいい試合、負けてもいい展開、次に繋がればそれでいいやという試合が存在し、個人のタイトルが絡む、ペナントレースでは、どうしてもWBCのような盛り上がりを持続することは難しいと思う。
 
ではどうすればいいのだろうか?
ライバルの存在、古田ヤクルトと野村楽天の試合だけは全国中継してやれ。
セパ全戦先発投手を予告先発にしよう。
 
勝つか巻けるか、のひりつく試合、やはりセリーグもトーナメント形式で最後は日本シリーズ進出チームを決めるべきだ。全チーム参加でもいいと思う。
 
または、4年に一回のWBCの空白期間を盛り上げるためにも、年に数試合くらいはサッカーのように代表試合(今度はドミニカとの代表戦とか)もやって欲しい。


そしてヒール役(巨○)の復活。いくら金積んでもいいからメジャーのいい選手を引っ張ってきてもう少し強くなってくれ。

以上、阪神ファンのタワゴトでした。