第二百四十九夜 PLUTO-プルートゥ-

PLUTO (1) (ビッグコミックス)

PLUTO (1) (ビッグコミックス)

PLUTO (2) (ビッグコミックス)

PLUTO (2) (ビッグコミックス)


今回はネタばれ有りのお話なので、未読の方はご注意を。
 
浦沢直樹作のプルートゥの二巻が発売されました。
久々に漫画の単行本を買ってしまいました。
 
そもそもこの、「PLUTO」、手塚治虫の「鉄腕アトム」を下敷きにして2003年4月3日のアトム生誕に併せる形でスタートしました。
鉄腕アトム「地上最大のロボット」より
と単行本に注記があるように、原作マンガを持ったマンガというかなり特殊な作品です。
 
ストーリーそのものは原作のストーリーをなぞる形で進むのですが、ディテールの部分で浦沢色が加味されて、原作があるにも関わらず展開が読めない面白さがあります。
 
取り上げているサイトを探してみました。
http://someiyoshino.cool.ne.jp/NowOrNever/non2/archives/000029.html
ここもネタばれ有りの書き込みなのでご注意を。
手塚原作の粗筋へのリンクも掲載されていますので未読の方はなぞっておくのもいいかもしれません。
http://www.phoenix.to/64/64-1.html#link2
 
この元作品、アトムの話の中でも人気の作品で、7人の世界最強を誇るロボットをプルートゥというこれまた世界最強を狙うロボットが倒して回る、という作品。各種ロボットが次々と登場する中で、アトムが100万馬力に改造されたりと、すでに格闘マンガの力のインフレが見て取れます(ただしこの作品の中では100万馬力になることによる弊害をアトムに課すことで力のインフレに駄目だしをしていますが)。
 
http://www.yamaguchi.net/archives/000424.html
こちらでも。

さて、作品のタイトルにもなり、手塚作品の中で悪役として作られた「プルートゥ」ですがその原意を調べてみたところ・・・、
なんと検索にひっかかってくるのは浦沢「PLUTO」の関連記事ばっかりです!
 
こういうことが起こってしまうんですねー。
ちなみに原意は
http://luna.picot.ne.jp/greek/greek_data_h.html
ギリシア神話オリュンポス12神のひとり、「ハーデース」とも異称される冥界の王の名です。ちなみに冥王星を指して「PLUTO」とも呼びます。
 
さて、他の登場人物も大体元ネタは分かるのですが、唯一「ボラー」だけが不明です。
検索しても「宇宙戦艦ヤマトのボラー連邦」ばっかりでてくるし・・・。
 
どう考えてもヤマトの方が後だしなあ・・・・。まさか魚の「鯔」でもあるまいし・・・。
 
 

 
さて、こっからは真面目な感想です。そしてさらにネタばれオンパレードの僕の覚え書きに近くなります。
 
 

まだ2巻しか出ていない「PLUTO」ですが、いろいろな複線が張り巡らされていてなかなか目を離せません。ただし一ヶ月に一回の連載なので刊行ペースが異常に遅い・・・。
先読みをするサイトが他にもいっぱい出てきていると思います。
ここまでで分かっている複線らしきものと言えば、

・主人公ゲジヒトの2年前の記憶、それとリンクするかのような彼の夢、「一体500ゼウスでいいよ」という男、ゲジヒトのメモリーを取り込んだアトムのゲジヒトへの哀れみ(彼の過去に対しての感情なのは間違いない、と思うのだが)
・手塚作品では冒頭から敵役「プルートゥ」が大っぴらに出ていたのが、浦沢「PLUTO」では逆にその名しか登場していない(タイトルに使っているのに???何故という疑問)
それと対比するように手塚作品では最後の方になって登場する「ボラー」の名が浦沢作品ではかなり早い段階(3巻で終わっちゃったら決して早いわけではないかな)ででてくる、という相違。
・それに伴って手塚作品では始めから犯人は「ロボット」という答えが明示されていたのが浦沢作品では犯人は「人間?」という含みを持たせています。
・手塚作品では「ロボット同士の戦い」という構図からロボットの悲哀が現れていましたが、浦沢作品では「人間とロボットの対立」という構図がかなり始めから提議されています。人間の生活に近づこうとするロボットと、ロボットを嫌悪する人間、その狭間で苦悩するロボットたち、という複雑な構図です。
手塚作品が発表された当時と今では社会情勢も違うし、60年代という時代にあれだけ先進的な題材をモチーフにした手塚治虫の偉大さを否定するつもりもないですが、浦沢作品の方がさらに一歩踏み込んだ題材に取り組もうとしていることが分かります。
・ブラウ1589、Dr.ルーズベルトという手塚作品では登場しなかったロボットが浦沢作品には登場します。二つとも物語のかなり重要な位置を占めることは間違いなさそうです。
・なによりも視点がアトムではなく、手塚作品ではチョイ役だったゲジヒトが主人公になっています。ゲジヒトは手塚作品では登場後すぐにプルートゥにばらばらにされてしまいそれっきりなのですが、浦沢作品ではこのまま最後まで主役になるのでしょうか? 彼の刷り返られた(?)記憶に鍵があるようですが、もしかしたら、ロボットと人間の狭間で苦しむ姿を「アトム」に託するには心苦しさがあったのかもしれません。そうするとこの先ゲジヒトが進んでいく物語の先はかなり残酷なものではないかと私なんかは邪推してしまうのですが。

2巻の終わりにウランが登場することで、物語はさらに手塚作品をトレースする形になっていますが、そろそろこういう手塚作品との相違が表出してくることで浦沢アトムの独自のストーリーも並行して進んでいくのではなかろうかと思われます。

ちなみに「PLUTO」も各話は「〜の巻」というタイトルが付けられています。今ではそういうタイトルの書き方はあまりしないと思うのですが、そこは手塚アトムをオマージュしたのでしょう。
あと気になるのが未登場の最強ロボット。
手塚原作では「エプシロン」という子供好きな光子ロボットなのですが、「PLUTO」の14話でチラッと見えるその姿は・・・・「女?」と思わせる髪型をしています。

う〜ん気になる。
 
ここまで複線いっぱいで、原作があるのを逆手にとった更なる複線の巧さはさすが、といったところでしょう。豪華版でわざわざ原作である「地上最大のロボット」をくっつけた意味もそこにあると思います。だとするといい意味で読者を裏切るはずの浦沢アトムは、手塚作品とは別の結末を用意しているに違いないと、私は思います。
アトムがプルートゥを倒すという筋は変えないでしょうが、そのあとにもう一段、どんでん返しを用意して待ち受けているんでは・・・。
 
浦沢さん推理小説とか書いたら面白いと思うんですけど・・・。